中国の黒船、Shein とTemu について

 日本でも人気のアパレルオンライン大手のShein と、雑貨販売Temu の中国発の二つの企業。二つともアプリをメインの販売プラットフォームとするオンラインの小売で、「トレンドっぽい」ものを驚きの値段で買えるのが主な特徴です。アメリカでも一時爆発的な人気を誇りましたが、一部で政治を巻き込んだ批判も生んでいます。先日TikTok の記事をアップしましたが、アメリカ市場を揺るがす中国オンラインサービス二社のそれぞれについてまとめ、考察します。

 
目次

  1. 両社の魅力について

  2. 両社のマーケティング手法

  3. 両社への批判

  4. 小売り店への影響

  5. まとめ


1. 両社の魅力について

Shein

Sheinはファストファッションの特性を活かし、最新のトレンドを手頃な価格で提供しています。Sheinのターゲット層は、 主に10代から30代の若年層です。トレンドに敏感で、SNSを通じて最新のファッション情報を得る層に強く訴求しています。服からアクセサリー、靴まで幅広く、トレンドに敏感な消費者に迅速に新商品を提供しています。低価格の商品を大量に販売することで利益を上げています。最新のトレンドを迅速に取り入れ、小ロット生産で在庫リスクを最小限に抑えものすごいスピードで新商品を発売。2022年の推定売上高は230億ドルに達しました。

Temu

Temuも同様に驚異的に競争力のある価格設定で、ファッション、家電、日用品、ガジェットなど幅広く非常に多くの商品を提供しています。Temu の顧客層は、若い世代もそうですが、中年層やベビーブーマー世代にも人気があります。特に固定収入で生活する消費者に対して、コストパフォーマンスの良い商品と中毒性の高いショッピング体験を提供しています。親会社であるPinduoduoの支援を受け、短期間での急成長を遂げており、2023年の推定売上高は170億ドルに達しました。一方で急激な成長のための広告費として2023年には17億ドルを投じ、2024年には30億ドルに達する見込みです。大規模資本による広告投資により、市場シェアを迅速に拡大しています。

アメリカでの月間アプリのダウンロード数の推移。Shein のほうがユーザー数が圧倒的に多い。

 

2. 両社のマーケティング手法

Shein

SNSを駆使し、インフルエンサーとのコラボやキャンペーンを展開。InstagramやTikTokでの露出を増やし、若年層にリーチしています。消費者のフィードバックを迅速に反映し、新しいトレンドを柔軟に反映した商品企画が人気です。

Temu

ルーレットやクーポン獲得ゲームなど、エンターテインメント性を取り入れたショッピング体験を提供しています。これにより、消費者は何度もTemu に訪れ、買い物を繰り返します。先に述べたように大量の広告資金を投下しているので、広告での訴求も多く、特にFacebookやテレビ広告など、幅広い年齢層にアピールしています。

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3. 両社への批判

低品質とサプライチェーン
いずれのプラットフォームでもショッピングをしたことがありますが、どちらも驚くほど価格が低いですが、品質もそれなりといった印象で、素材や品質の低さへのクレームがオンラインでは多くみられます。また、低価格を実現するためのサプライチェーンにおける労働環境の問題や、サステナビリティーの観点からの批判も高まっています。両社は中国企業であるため、データプライバシーやセキュリティに対する懸念が高まっています。特に消費者データの取り扱いや、中国政府との関係についての不透明さが問題視されています。

 

中国からの小口配送コスト

両社の低コストの理由の一つに、中国からの小口配送に関する「デミニミスルール」の恩恵もあります。この規則により、800ドル以下の商品の輸入は関税を免除されます。これにより、両社は低コストで米国市場に商品を供給できます。この法律は中国企業に有利であり、アメリカの小売業者にとって不公平だとする政治的批判がが高まっています。

 

4. 他の小売店への影響

価格競争の激化

SheinとTemuの低価格戦略は、既存の小売業者に対する大きなプレッシャーとなっています。市場で流行っている商材をすぐに商品化して安く販売してしまうため、類似商品を扱う多くの小売店が、価格を引き下げるか、より付加価値の高い商品を提供することで対抗しなければなりません。


デジタルマーケティングの強化

SheinやTemuがSNSやデジタルマーケティングを活用して成功していることから、他の小売業者もデジタルマーケティングの強化を迫られています。デジタルでの広告投資は広告費用=情報発信量のため、秀逸なマーケティング戦略も重要ですが、費用を投下し続ける資金的な体力も重要になり、コスト増につながっています。

物流と配送の競争

SheinやTemuが低コストで迅速な配送を実現していることから、他の小売業者も物流と配送の改善に投資をしています。Shein やTemu だけの影響ではないですが、オンラインショッピングの広がりにより、小売店各社がオンライン発送などのオムニチャネルのサービスの質を拡充する必要に迫られています。

5. まとめ

SheinとTemuは共にアメリカ市場で成功を収めていますが、安価で、多様なニーズにこたえる幅広いSKU数という共通な強みを持ちながらも、ターゲットや戦略に異なる点を持っています。低価格戦略とデジタルマーケティングの巧みさで消費者の心を掴んでいる一方、品質管理や倫理的な問題、さらには政治的な問題に直面しています。

 実際に購入したものとしては、品質的にも企業の在り方的(値引きの仕組みが多くてうんざりするし、商品が模倣ばかり)にも、継続して商品を購入したいとは思わないかなというのが正直なところです。コロナ以降の長引くインフレから消費者が「安い商品を大量に買う」という消費動向から、「良いものを厳選して買う」というプレミアム志向に動いているというトレンドもあり、こうした企業が今後どのような成長を遂げていくのかは未知数ですが、市場トレンドに大きな影響を与える両社の動きに今後も注視していきたいと思います。

 

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