2年間使ったものでも返品Ok?! 日本では非常識なアメリカ小売りの常識
日本では一度購入したものを、何か欠陥がない限り返品するのは “非常識” とされるケースが多いと思いますが、アメリカでは返品は当たり前の行為として認識されています。
2023年のラディアルによる1000人のアメリカ人を対象にした調査によると、58%の人は特段事由がなくても、無料での返品対応を小売業者に期待しています。さらに、32%はオンラインで購入して店舗で返品する仕組みを期待し、調査対象者の4分の1以上がどの商品でも返品に対しての制限がないことを期待しています。 返品は、リアル店舗およびオンラインの小売業における顧客体験の大きな要素となっており、消費者にとって有利な返品サービスは、シームレスな体験を生み出し、人々がより多くの商品を購入することを促進するマーケティング手法になっています。
アメリカの小売業界の返品について数字で見ていくと、2022年に8,160億ドル(約106兆円) に達し、これは2022年の小売販売総額の約16.5%に相当します。2020年の返品率は10.6%だったので、コロナ後に大幅にアップしたのがわかります。オンライン販売の返品率は2021年に20.8%、2022年は16.5%となり、 実店舗よりも高い傾向にあります。そして返品された商品の一部は再販されますが、多くが廃棄処分されており、環境問題にもつながっています。返品大国、アメリカですが最近その仕組みを悪用する人も増えており、小売店の反撃とも言える動きがはじまっています。今日は小売業界における返品システムの現状についてまとめます。
目次:
1. 返品する理由
2. 信じられないほど寛容なリターンポリシー
3. 2024年、はじまる小売店の対策
4. まとめ
1. 返品する理由
欠陥品をのぞアメリカの返品の75%は、特にファッション製品で、サイズの不適合などの理由がほとんどです。顧客の期待と実物との不一致が13%の返品を占め、販売側は写真や動画、商品説明などでオンライン上でも十分に商品の説明をする必要があります。その他の原因には、配送遅延、複数のサイズや色を注文して一部を返品する「ブラケティング」、購入意思の変化(=買ったけど、やっぱりいらないや!ってこと)が含まれます。
2. 信じられないほど寛容なリターンポリシー
顧客に寛容な返品ポリシーを掲げることで知られる小売業者は、消費者の信頼の獲得と顧客満足を重視し、以下のような返品ポリシーを設定しています。
コストコは超絶寛容なリターンポリシーを提供していることで有名で、週末はリターンの窓口に長蛇の列ができるほどです。一方である女性が二年間使用し続けたソファーをリターンする動画をSNSに投稿したところ、「返品ポリシーを悪用している」「悪質」とかなり炎上。
コロナパンデミックで、オンラインでの購買行動が一気に促進され、リターンポリシーを提供することが、オンラインオフライン双方の小売店にとって重要な販促施策になった一方で、なんでも返品できるからと小売店ないしメーカーの利益をあまりに蔑ろにする一方的な返品を、さすがのアメリカの社会でも「やりすぎ」とする風潮が出てきています。
3. 2024年、はじまる小売店の対策
冒頭述べたように、返品はアメリカの小売店の売上の10%以上(利益ではなく!)を占めるようになり、インフレとオンラインショッピング文化の高まりという二重の圧力を受けています。またアメリカでは万引き(というより窃盗団に近いような行為)した商品を返品し現金に変えるような犯罪行為も増えており、こうした行為と、コストの損失を抑えるために戦略的に返品ポリシーを見直しています。
小売業者は、返品を追跡、管理するためにテクノロジーを利用しています。Retail Equationのような企業は、頻度、取引金額、レシートの所持などの要素に基づいて顧客の返品行動をモニター、スコアリングするサービスを提供しています。
それ以外にも小売り店による返品を減らす工夫は以下のようなものがあります:
返品期間の短縮:返品が認められる期間を短縮し、返品量を減らしています。
返品しなくてOk:Amazon は返品にかかるコスト(返送料、倉庫受け入れコスト、検品コスト)を削減するため、特定の商品については返品不要の選択肢を設けるようになりました。
返品に対する課金:特にオンラインでの購入に対して購入者側の理由による返品について返品料を課しており、物流コストを相殺しています。
詐欺的なリターンの防止:高価値の商品や詐欺の恐れのある商品は、より厳格な返品ポリシーの対象となっており、一部の小売業者は返品に際して身分証明書の提示を要求しています。
4. まとめ
今後、小売業界は顧客サービスとコストのバランスを取るために、返品ポリシーやそれにかかわるシステムの構築を促進させていくといえます。一気に進んだオムニチャネル文化とそれに付随する返品システムは今後大きな変化を生むかもしれません。私自身一消費者として、アメリカの簡易な返品システムに恩恵を受ける一方で、商品を販売するブランドの立場としては買い手側が有利すぎる現在の慣習に疑問を感じるときもあります。売り側に落ち度のない返品でも、商品の売上だけでなく、返送費用をはじめとした返品に関わるコストを売り側が吸収しなければなりませんし、商品の返送によって梱包のごみや、輸送のエミッションも発生します。消費者の権利と利便性を確保しつつ、あらゆる点でサステナブルな視点での仕組みづくりが進むことを期待します。
参照
https://www.eatthis.com/craziest-costco-returns/
https://www.youtube.com/watch?si=PZ2WD7glikP33vYR&v=XZemo1KVQMA&feature=youtu.be
https://forbesjapan.com/articles/detail/53182